2024年10月29日〜31日、パシフィコ横浜にて、東京科学大学教授 森山啓司先生大会長のもと、第83回日本矯正歯科学会大会が開催されました。
私は日本矯正歯科学会臨床指導医であり、5年毎に更新が必要です。
更新期限まであと 2年あるのですが、症例提出は患者さんの同意書が必要であり、早めに済ませておきたいので、本学会ではいつもどおりリンガルマルチブラケット法で治療をした症例を提出、無事合格しました。
本大会では、必ず聞きたい講演がいくつかあり、3日間、第1会場と第2会場を行ったり来たり、朝から晩まで聞きたい講演を全て拝聴することが出来ました。
まず29日、15時から生涯研修セミナー、「ビスホスホネート製剤と歯科治療」というテーマでは、福岡歯科大学教授 池邉哲郎先生が「薬剤関連顎骨壊死MRONJポジションペーパー2023の背景と今後の課題」、大阪府立病院 道上敏美先生が「小児におけるビスホスホネート治療」、松本歯科大学教授 田口明先生が「薬剤関連顎骨壊死のポジションペーパー2023の概要」について講演されました。
骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネート製剤を服用している患者さんに観血処置を行うと、顎骨壊死を起こすことが知られており、私たちが日頃非常に神経を尖らせているところです。
患者さんの中には、御自身の身体の不具合を隠していたり、歯医者に関係ないと勝手に判断して服用している薬剤を申し出てくれない人もいるからです。
私の知っている限りでは、ビスホスホネート製剤が直接顎骨壊死を起こすのではなく、観血処置後の感染が顎骨壊死を招くのであり、処置後の感染対策をしっかり行えば大丈夫、と認識していました。
先生方の講演を聴き、私の知識は間違ってはいなかった、つまり、顎骨壊死は観血処置を行う以前から存在していることが多いこと、観血処置のために投薬中止をしてはならないということを再確認しました。
16:30からのサテライトセミナーは、「外科的矯正治療の今」というテーマで、東京歯科大学准教授 菅原圭亮先生が「デジタルテクノロジーを駆使した外科的矯正治療の今」、東北大学教授 山内健介先生が「顎矯正手術の現在と未来」、大阪大学准教授 黒坂寛先生が「骨延長術を伴う顎変形治療における診断と治療」という演題で講演されました。
最近の外科矯正にはdigital dataは不可欠ですが、東京歯科大学では学生教育にも Apple vision Proを用いているのには驚きました。
ひろ矯正歯科は顎口腔機能診断施設であり、外科矯正治療も健康保険適用となります。
過去には松本歯科大学や信州大学と連携し、SSROだけでなく、2 jaw surgeryをも多数行って来ましたが、最近では、外科矯正症例はオペも矯正治療も松本歯科大学に依頼していました。
その理由として、オペの際には、顎位確認のために私がオペ室に入る必要があるのですが、某先生が執刀されていた頃は、オペが時間どおりに進まず、私がオペ室から引き上げる時間が大幅に遅れ、オペ当日の午後、ひろ矯正歯科に来院される患者さんを非常に長時間お待たせしてしまうことが多かったためです。
ところが、矯正治療をどうしても ひろ矯正歯科で行わなければならない患者さんがいらっしゃって、ひろ矯正歯科での外科矯正を復活することとなりました。
ちなみに、松本歯科大学口腔外科の名誉のために記しますと、現在は、芳澤享子先生、栗原祐史先生の両教授のもと、外科矯正は佐藤工先生が執刀されており、難しいオペも安心して受けることが出来ます。
29日の夜は勤務医の村上先生と芽生先生と3人で食事をしました。
30日朝イチの海外特別講演は、、、演者の名前は記しませんが、特別講演としてはあまりにも内容がアレで、聴いていた先生の殆ども同じように感じられたのではないでしょうか。
非常に著名な先生ですが、日本の矯正歯科のレベルを知らないのかな、、。
10:20からのシンポジウム1、「矯正歯科治療にける形態と機能の調和を目指して 側方的問題に対するアプローチ」では、Ferrara大学客員教授 Ute Schneider-Moser先生が「Unveiling the buccal corridor myth」、日大松戸教授 根岸慎一先生が「混合歯列期の口腔機能が歯列形態に及ぼす関連性について」、鶴見大学教授 友成博先生が「非対称症例の機能的問題と側方的問題に対するアプローチ」という演題名で講演されました。
Uteは私がEBOを受けた際のExaminerである Dr. Lorenz Mozerの奥さんです。
Buccal corridorやSmile archに関しては、日本でも20年近く前に本を書かれている先生もいますが、内容的には同意出来ない部分が多かったので、Uteの講演を聴いて、やはりあの本に書いてあることはオカシイ、私は正しかったナ、という確証が得られました。
30日午後は臨床セミナー、「歯科矯正用アンカースクリューを用いた臨床をアップデートする」というテーマで、東京科学大学助教 上園将慶先生が「皮質骨に固定源を求める新型歯科矯正用アンカースクリューによる矯正歯科治療の試み」、東京歯科大学講師 立木千恵先生が「矯正歯科用アンカースクリューの適応を拡げる」、Kyung Hee大学教授 Won moon先生が「Could we advance Maxilla in Mature Patients Non-surgically? Non-surgical Class III Orthopedic Correction with MSE and FM: Growing vs Nongrowing Patients」という演題で講演されました。
MIAの長さは維持とは相関が無いというデータがあり、特に上顎正中部にMIAを打つ場合には洞との関係から短い方が望ましいと思っておりましたので、上園先生の大径の短いスクリューは安全で脱落しにくいと思われ、早く使いたいと思いました。
16時からのワークショップは「矯正歯科専門医制度の認定と今後について」というテーマで、日大名誉教授 清水典佳先生が「矯正歯科専門医制度認定までの道程」、鶴見大学教授 友成博先生が「日本歯科専門医機構認定矯正歯科専門医制度の概要と取り組み」、九州歯科大学教授 川元龍夫先生が「新たな矯正歯科専門医制度における研修施設に求められる教育要件」、奈良県 岡下慎太郎先生が「これから新しく専門医を取得するために留意すべきポイント」について講演されました。
「矯正歯科専門医」に関しては、過去の院長日誌に書いたように、日本成人矯正歯科学会と、日本矯正歯科協会が「矯正歯科専門医」という用語を使い始めたために、厚労省のほうから3つの異なる団体にそれぞれ矯正専門医があるのはおかしい、1つにするように、という指導があり、2019年より「日本矯正歯科学会専門医」という用語が使えなくなり、日本矯正歯科学会学会は「臨床指導医」という、患者さんにとって非常にわかりにくい語句を使用せざるを得なくなりました。
この問題解消のために、非常に永い間、日本矯正歯科学会の役員の先生方が大変な苦労をされてきました。
迷惑したのは、日矯学会の役員の先生方だけでなく、専門医の資格を有する会員も、非常に大きな迷惑を被ってきました。
私は、個人的には、このような行為は日本矯正歯科学会会員としてあるまじき行為で、私流に考えると、日本矯正歯科学会会員資格の剥奪、学会から除名すべきだと常々思っておりました。
ただし、こうゆう輩は、除名すれば、不当だと訴訟を起こしてくることが当然予想されますので、これらの迷惑行為を行っている日矯会員には、迷惑行為をやめるか日本矯正歯科学会を辞めるか、どちらかを自分で選択するようにさせ、自分で決めさせれば良いと思います。
会規がそうなっていないから無理だと言う先生がいますが、それならば会規を改めれば良いのです。
そこのへんをじつに上手く、波風立たないように、大人対応をされた日矯学会の先生達は流石で、頭が下がります。
長年、お疲れ様でした、有り難うございました。
そのおかげで、今現在、「矯正専門医」という用語はやっと使用することが可能となりました。
ただし、いくつか条件があり、表記するには「日本歯科専門医機構認定 矯正歯科専門医」と記すこと、ホームページは矯正料金やリスクなどが公開されている等々、委員会の審査を通過しなければなりません。
認定された「日本歯科専門医機構認定 矯正歯科専門医」の中には、HPに料金もリスクも掲載されていない医院や、料金が掲載されていても、実際にかかる料金とは違う、自分が他よりも優れているという表現がされている、などという医院も存在します。
ひろ矯正歯科の公式ホームページでは、これらはきちんと公開しており、料金に関しても、記載と違うような料金を請求されるなどということは絶対にありませんので御安心下さい。
朝、ホテルからは富士山が見えました。
31日は9時から Washington大学教授 Greg J Huang先生の「Aligners: Past, Present, and Future」という演題で、アライナーの 20年以上前の RCTから未来について講演されました。
アライナーは一時期もの凄い勢いで増えていましたが、最近、アライナーの問題点を理解する先生が増えたのでしょうか、少し勢いが衰えたように感じます。
ひろ矯正歯科では、現時点では基本的にアライナー矯正は行わず、真面目にマルチブラケットで治療を行っています。
リンガルマルチブラケット法で少しだけ歯の移動を行った後、アライナーで誤魔化す、などというインチキもしません。
12:40からの創立100周年記念学術研究プロジェクトセッションでは、福岡歯科大教授 玉置幸雄先生etc.が「日本におけるマウスピース型矯正装置の問題」、東京科学大学教授 小野卓史先生が「咬合-味覚-糖代謝関連:矯正歯科から糖尿病への新提案」、明海大学教授 須田直人先生が「日本における口唇裂・口蓋裂児の術前顎矯正の治療指針作成に向けた多機関(施設)評価 -動的矯正治療開始時の咬合不正の軽症化に向けて-」、岩手医大教授 佐藤和朗先生が「歯科矯正材料のMRI検査に及ぼす影響について」講演されました。
矯正治療中のMRI撮影に関しては、ひろ矯正歯科の公式ホームページにて公開しているとおり、撮影条件を工夫すれば、矯正装置が入っていても、保定のワイヤーが入っていても、問題なくMRIは撮影可能で、脳(海馬)や顎関節も撮影可能です。
15時からのシンポジウム2では「矯正歯科治療における形態と機能の調和を目指して -垂直的問題に対するアプローチ」というテーマで、北海道医療大学教授 飯嶋雅弘先生が「垂直的問題を有する不正咬合に対する成長期の矯正治療」、東京歯科大学教授 西井康先生が「咀嚼筋と顎骨骨質の関係そして矯正治療後の安定性」、九州歯科大学講師 郡司掛香織先生が「当分野で行っている垂直的問題に対する外科的矯正治療」、広島県 小川晴也先生が「垂直的問題に対してアプローチを行った矯正歯科治療の長期保定 -開咬の術後長期経過からの考察-」について講演されました。
今回の日本矯正歯科学会は、「矯正歯科専門医」の件で、記念すべき大会であったと思います。
「日本歯科専門医機構認定 矯正歯科専門医」を取るには、日本矯正歯科学会の認定医を持っていることが条件であり、その条件となる日矯認定医を取るには、最低2年間の基本研修機関での研修、そのあと最低3年間の臨床研修機関での研修を行わないと、認定医試験を受験することが出来ません。
現状の大きな問題点として、先生によっては諸々の事情で基本研修機関に残れないことがあります。
特に女性の歯科医師は、妊娠、出産などや、家族の事情等によって、やむなく大学に残ることを断念した、という先生が多く存在します。
認定医や専門医の目的が、「患者さんが安心して矯正治療を受けられるようにすること」であるならば、基本研修機関で研鑽することが出来なかった歯科医師に対しては、
などの救済策を作り、大学に残れなかった歯科医師にも日本矯正歯科学会認定医試験の受験のチャンスを与える、ということが必要であると考えます。
これは、海外では既に行われていることであり、日本では、例えば「大検」のように、高校を卒業出来なかった人にも大学受験資格を与える、ということが行われています。
日本に存在する最大かつ最高権威の矯正歯科学会という学術団体として、御一考頂けることを希望します。
本学会では、学術展示171題も目を通してきました。
非常に濃い3日間でした。
次回は 2025年9月29日から、札幌コンベンションセンターにて開催されます。
折角横浜に来たんだからと、帰り道、中華街に寄りました。
焼き小籠包は、いつも火傷するアツアツでしたが、この日は3軒食べてもみんな冷たくて、美味しくなかったです。