2月12日~14日、東京ヒルトンで Dr. G. William Arnett & Dr. Richard P. McLaughlinの外科矯正セミナーが開催されました。
Dr. Arnettは Californiaの Santa Barbaraで開業しているOral Surgeryの専門医(!)で、年間100 CaseものSurgeryをこなしているそうです。Dr. McLaughlinは California San Diegoで開業している矯正歯科専門医です。
Dr. Arnett
Dr. McLaughlin
一般的に、私たち矯正歯科医が頭を悩ませている問題については、口腔外科サイドの先生は詳しく理解してくれていない傾向があり、受講する前は矯正専門医 VS 口腔外科医の熱いバトルが見られるのかと期待していましたが、Lectureが始まってすぐに、両先生が非常に素晴らしい関係で仕事をされているということがわかり、矯正専門医の私としては、ただただ、羨ましい限りでした。
今回のセミナーの Main themeは Facial Planningで、Natural Head Postureにおける Lateral Cephalometricsから TVLをおろし、7 steps CTPにより分析をしてゆくもので、要旨は1999年に AJODOにすでにpublishされております。
7 Steps CTP
近年、Cranial Baseに主眼をおいた Hard tissue 主体の従来の分析方法では、さまざまな問題が指摘されています。
私たち矯正専門医は、矯正界の門戸を叩いたときから、Angleの不正咬合の分類を学び、 Angleと Caseの controversyについて考え、Tweed, Steiner, Downs, NW, Ricketts, McNamara, etc.などを矯正学のイロハとして勉強してきています。
ところが、最近、これら硬組織を主眼に置いた分析方法では問題があると私たち自身も感じており、また、Caucasianにとっては問題なしとされることが、High angleで Crowdingの著しいJapaneseには当てはまらないことが非常に多く、診断の際には得られたデーターに自分の経験を加味して modifyしているのが現状です。
ですから第三者に「なぜ、こうしたのか」と聞かれると Subjectiveな返答が出来ないことが多々ありますが、今回の Dolphin Imagingを使った分析は Caucasianのみでなく Japaneseの Normと S.D.も installされており、私たち臨床家にとっては非常に有意義なものです。
今回のセミナーで彼らが私たちと決定的に違う点は、
1,患者構成、
2,患者意識、
3,口腔外科医のレベル、
の3つだと思いました。
1の患者構成に関しては、caucasianにおいては当然ながらClass IIが多く、しかもDr. ArnettによればClass II Surgery の内訳は上顎単独5%、下顎単独15%、上下同時移動80%ということでした。
Class IIなのに上顎の advancementを行い、下顎をさらに advanceするということが多い、ということでした。
日本ではそのようなケースは非常に希だと思います。
また、Occlusal plane が Steepなので PNSを降ろして Mxを counterに回す → 下顎のForward Rotationが可能になる → Chin projectionが改善される、というcaseが多く、上顎の Impactionは行うが、set backは行わないということでした(やってはいけないというのではなく、ただ単にそうゆうケースがない、とのこと)。
これについても 14ミリ以上のcrowdingと8ミリ以上の Class IIの臼歯関係を併せ持っている事が珍しくない私たち日本人には当てはまらないな、と感じました。
また、Double Jaw Surg.を行う場合、日本では上顎を先に切り、固定した後で下顎のオペに入るということが常識ですが、Dr.Arnettは下顎を先に切って、そのあとで上顎を切るということでした。
これはいくら考えてもおかしい、上顎を先に切ってしっかり固定し、それに合わせて下顎を持っていった方が絶対に stableなのに、なぜそんなことをしているのか??と自分なりに考えてみたところ、、、PNSを数ミリ~10数ミリ下げなければならない場合、下顎のオペを先行しないと、降ろされた上顎の臼歯が下顎と干渉し、下顎のオペの邪魔になるからではないか、という結論に達しました。。
2の患者意識については、オペ時間、入院期間などが日本と全く異なるため、患者さんサイドとしても外科矯正を受け入れやすい状況にある(というよりも、Dr.ArnettはSurg.専門開業されているので、そうゆう患者さんが自然に集まる)と思いました。
3の口腔外科医のレベルに関しては、分析が0.5ミリ単位で行われていることを見ても、彼がいかに精度の高い仕事をしているかは明らかで、lecture を聞いていても Dr.Arnettの厳格な性格は伝わってきました。
0.5ミリ単位ということは、当然、治療後の評価も0.5ミリ単位で行われているわけです。
時々、顎間固定を除去したとたんに Verticalあるいは Horizontalに数ミリずれが出てしまい、その数ミリのズレをとるのに私たち矯正専門医は数年間悪戦苦闘し、それでも治れば良いほうで下手をすると一生ひきずってしまうことがあります。
そのことについて執刀してくれた口腔外科医に話しても、トラブルになるだけで解決されるわけではないので、話さない、話さないから私たちが満足していると誤解している口腔外科の先生が多いです。
日本の口腔外科医が決してアメリカの口腔外科医より劣っているなどとは思いませんし、日本には世界に誇れる素晴らしい口腔外科の先生もいらっしゃいます。
私も最近やっと素晴らしい口腔外科の先生と知り合うことが出来、そういったストレスから解放されつつあります。(その先生に御迷惑がかかるといけませんので、その先生が誰であるかはここでは紹介出来ません。御了解下さい。)
日本では口腔外科単科開業というのは余程の crazyでなければ考えられないでしょうが、日本の専門医がみな外科症例で頭を抱えているということを考えると、Dr. Arnettのような仕事をしてくれる口腔外科医が日本にもいれば、日本全国から矯正医が患者さんを連れてやってくることは間違いないと思うのですが、、。
そのためには、まず現行の保険制度を改めなければなりません。
日本は誰のために存在し、税金や保険は誰のために毎月支払われているのか、政治家達がわかっていない以上、私たちに国民に明るい未来は来ないと思います。
MDU卒後研修セミナーで、東京都千代田区開業の武田孝之先生がインプラントについて講演されました。
武田先生は1990年に東京・千代田区で開業され、現在は日本補綴歯科学会指導医、日本口腔インプラント学会認定医で、国内だけでなく海外でも知られているインプラントの第一人者です。
武田孝之先生
講演では、20年以上に及ぶインプラントの経過を多数見せていただき、矯正専門医の私はインプラントに対する認識を新たにさせられました。ただ、誰でもが武田先生のレベルで治療できるわけではないので、患者さんに無条件でインプラントを薦めるというわけにはいきませんが、、。
講演を聴いていて「さすがだな」と思ったのは、普通の開業医の話は ただ写真を見せて、「治りました」の羅列、「~~だと思います」など、私見を述べるのみで、学術的バックグラウンドがない先生が多いですが、武田先生は必ず学術雑誌の referenceを提示しておられました。
さらに、講演中、受講者の先生に対して「文献を読むならば商業ベースの雑誌ではなくて、学会誌を読んで下さい。」と仰ったことです。
これには全く同感です。
開業医の中には、歯界展望だとか、クインテッセンスなどの商業ベースの雑誌ばかり読んで、患者さんに試してみる先生がいます。
これらの査読制度も何も無い本に書かれていることを鵜呑みにして、治療にあたるというのは絶対にやってはならないことだと思います。
週刊誌と同じで、売れそうな記事であれば載せるのが商業ベースの本だからです。
そうゆう本を読むこと自体が罪だ、とは言いませんが、そうゆう雑誌を読むならば、少なくとも査読制度のしっかりしている学会誌などから得た知識を十分に持った上で 読むべきだと思います。でないと、書かれているのが間違った情報かどうかが分からないです。
さらにもう一つ共感したのは、インプラントに関しては成功か失敗かという議論が常についてまわりますが、武田先生は御自身で治療に対する成功・不成功の判定基準をしっかりと持ち、厳格に判定されて診療に取り組んでいらっしゃるということでした。
Distraction Osteogenesisをはじめとする質問を3つさせていただきましたが、一つ一つとても丁寧にお答えいただきまして、感激しました。
武田先生、お忙しいところ遠路はるばるお越し頂き、素晴らしい講演をありがとうございました。
10月22-24日、名古屋国際会議場にて第61回日本矯正歯科学会が開催されました。
日本矯正歯科学会はその名の通り日本で最大の矯正歯科学会ですが、ここ数年、あまりimpressiveな演題がなく、参加意欲があまりわかないのが正直なところでしたが、今年は Implant anchorage ならびに Distraction osteogenesis に関する演題が多く、たいへん実のある話を聞くことが出来ました。
Implant anchorageを利用した矯正歯科治療は15年くらい前から報告されておりましたが、殆どは口蓋部分にボタン大のものを打ち込んで行われたもので、矯正治療中に炎症を起こしてしまったり、術後の骨欠損が大きく認められたり、さまざまな問題がありました。
ところが最近では、Berlin の ESLO で KOREA の先生が発表されていたように、小さなスクリューを下顎枝や上顎結節舌側部分にねじ込んで行われており、operation に要する時間も数分間と短く、術後の疼痛や骨欠損も全く問題のないところまで改善されてきております。
Distraction osteogenesis に関しては、香川県の三次正春先生の講演と、VenezuelaのCesar A. GUERRERO先生の特別講演は大変ためになりました。
Distraction は、今までは Distractorを入手すること自体が困難であったり、費用的な問題や、手術時間の問題など、問題山積でしたが、この先生方の講演を聴いて、これからの矯正歯科は Implant anchorage ならびに Distractionを併用することは不可避であると感じました。
この2つを併用することで治療範囲が飛躍的に広がります。
私たち矯正専門医は、口腔外科医とタイアップして、これらについていつでも対応出来る環境を整備する事が必須であると思われました。
また、今まで私は Corticotomyに関してもどちらかというと否定的でしたが、今後は必要があれば行うべきであると、また同時に、それを行てくれる口腔外科医の確保が必要であると感じました。
学会あけて翌日25日は、名古屋中小企業振興会館にてインプラント矯正研究会が開催されました。
研究会の趣旨そのものも、たいへん共感できるものです。
日本にこうゆう研究会がもっと増えるべきだと思います。
日矯学会~インプラント矯正研究会まで、4日間フルに勉強させていただきました。
貴重な講演を聴かせて下さった先生方、ありがとうございました。