2018年10月30日〜11月1日、第77回日本矯正歯科学会がパシフィコ横浜で開催されました。
本大会は、第7回日韓ジョイントミーティングも併せて行われました。
日矯学会の認定医・指導医・専門医を維持してゆくには、5年に1度の更新試験と、指導者講習会への参加、日矯学会が認めた学会に参加して5年間で所定のポイントを得なければなりません。
日矯学会への参加は義務では無いのですが、歯科医師免許を下附されてから34年間、記憶の限りでは、日矯学会に参加しなかったのは一度だけ、開催地があまりにも僻地で交通の便が悪いために断念したことがあったように記憶しています。
そのあと、学会場へのアクセスと周辺の宿泊施設の問題で、日矯学会大会は基本的に都市部で行う、と決まった筈ですが、最近はまた主管大学の近所で行われるようになってきています。
個人的にはいろんな地を巡れるほうが楽しいですが、、。
会場のパシフィコ横浜
今回の日矯学会は、臨床セミナー、基調講演、教育講演、特別講演や240にも及ぶ学術展示、認定医・専門医試験に提出された症例も全てチェック、3日間、まったく会場から離れることが出来ませんでした。
学術展示会場
AAO会長のBrent E. Larson先生の “Creating an Exciting Future for the AAO”、ギリシャ矯正歯科学会会長のPanagiotis Skoularikis先生の “An Overview in European and Greek Orthodontics”、Asian Pacific Orthodontic Society会長のYanheng Zhou先生の “Digital Orthodontics, Current and Future” 、そして2020年に開催されるIOCの委員長の小野卓史先生の “未来への想い:2020年とその彼方へ”という講演は非常に興味深く聞くことができました。
なかでも、World Federation of Orthodonticsの会長であるAllan Rhodes Thom先生の “How did we get here and where are we going? Orthodontics around the world”、さらにBoston Univ.の主任教授であるLeslie A. Will先生の “Orthodontic education in the United States: Past, Present, and Future”という講演は、最近自分が憂いていることと全く同じ事をそのままお話しされており、自分だけでは無く世界のいろんな矯正専門医が最近の矯正歯科の風潮に嘆き、将来を憂いているのだと確認することが出来ました。
その最たるものは、「マウスピース矯正」です。
日本では「マウスピース矯正」という言葉が使われていますが、アメリカでは、Alignerには “Orthodontics”という言葉は使われていないのです。
つまり、あんな物は矯正治療では無いのです。
AlgnerのUser(先生ではなくてUser)が集まり、「Aligner研究会」なるものを各地で行っています。
誰が何処に集まって何を話していようが、それは自由です。
ただ、真剣に矯正歯科に取り組んでいる矯正専門医の立場から、はっきりと言っておきたいのは、あんな物に「マウスピース矯正」などと「矯正」という言葉を使うのは断じてやめて頂きたいということです。
「矯正歯科」とは、治療に必要な検査を行い、それを分析し、矯正診断を行い、治療方針を立て、計画的に治療を行うものであり、歯科矯正学の専門的知識と並々ならぬ努力の元に培われた技術がなければ治療が出来ないものです。
今から約100年ほど前のE.H. AngleとC.H. Tweedの論争は矯正歯科医であれば誰もが知っていることです。
アライナーについては、EACFMSのブログにも書きましたが、あんなものはMarcy’sでキットを買って送れば、装置を作って返送してくれるので、やりたい患者さんは歯医者に法外なお金を払うのではなく、直接そちらに注文すれば良いのです。
つまり、検査も必要無ければ、分析も診断も必要無い、歯が並べばそれでOK、こんなものは矯正歯科ではないのです。
Will先生も「アライナーは一般歯科医がやるものであり、矯正歯科専門医がやる物ではない、ネットで注文できるし、スーパーマーケットでも売っている」と、スライドを出されてはっきりと言っておられました。
Invisalineが発明された当初、歯には何も付けずに透明の薄い取り外しが出来ることが画期的であった筈です。
白人の非抜歯の簡単な症例は多少動かす事は出来ても、日本人の著しい叢生症例や抜歯症例でコントロールが出来なくなってくると、歯にボタンやノッチを付け始め、挙げ句の果てには、最近では顎間ゴムまで使っていますが、見ていて見苦しいことこの上ない、悪あがき以外の何でもないという事です。
ブラケットとワイヤーで歯をコントロールする技術が無いからそんな事をやるなら、矯正歯科を辞めればいいと思いませんか?
ユーザーの1人は、「ヒロは何故そんなに忙しいんだ、1日中ワイヤーを曲げているんだろう、アライナーにすれば楽だよ」と言いましたが、「100の結果が出せる技術があるのにサボりたいからアライナーで 50,40,30のレベルの治療をするくらいなら、歯医者を辞めたほうがいい」と言ってやりました。
矯正治療を受けるために一生懸命働いて貯金して、何時間も車を運転して治療にやってくる患者さんや、子供の歯並びを治すために夜遅くまでスーパーで働くお母さんを見ていると、自分にはそんないい加減な事は出来ません。
それからもう一つ、医療分野ではデジタル化が盛んに進んでいます。
デジタルを精力的にやっている先生が「日本は遅れている」と口癖のように言いますが、はっきりと言わせて貰うと、日本が遅れているのではなく、日本人の矯正治療に用いるには、Hard, Soft両方の点で、まだ満足のいくものではないために、殆どの先生が導入を見合わせているのであり、「遅れている」のでは無い筈です。
過去の院長日誌にも書きましたが、自分が Incognitoの発明者であるDirk Wiechmannの Officeに遊びに行ったのが2003年、今から15年前で、Incognitoが今のように一大勢力になる遥か前、そして私の臨床にも Incognitoを取り入れて何症例か治療したのが12年前です。
アメリカの某大学は今から8年前に全てデジタル化し、印象もアルジネイト印象をやめて Intra Oral Scannerに変えていますし、インドの先生は5年以上前にはすでに 3DCTと Intra Oral Scannerの dataを combineさせてIBSを行っています。
ひろ矯正歯科でも舌側矯正の Set upを Digital set up+3D printerで行ってみましたが、「お話にならない」レベルで、working timeも比較にならないため、IBSは従来どおりの manual set upを使っています。
私が言いたいのは、digitalの話をする先生は、digital化していない先生を遅れているように言い、digitalの良い点しか言わないという事です。
良いことだけを強調して述べ、悪い点については触れないのは、医学の進歩に貢献するどころか、逆に妨げになります。
私がDGLOでDigitalについて講演をさせて頂いた時には、Digitalの良い点だけでなく、問題点もしっかりと指摘してきました。
いつかは全てデジタル化することは間違いないでしょうが、現時点では digitalよりもnon-digitalの方が優れている点が多々あります。
CAD/CAM冠などが良い例で、職人的技工士の焼成した陶材焼き付け冠とは比較にもなりません。
矯正歯科は職人的要素が強い医療分野であるだけに、自分は DigitalとNon-digitalをしっかりと使い分けてゆきたいと思っています。
私達がdeviceを使うのであって、deviceに私達が使われているようではオシマイです。
Angle Orthodontistに掲載されたpaperを紹介します(画像クリックで full textに飛びます)。
Angle誌は全文を読むには所定の手続きを踏まないと読めないのですが、この記事は Open accessですので、ここに紹介します。
日本の矯正歯科の先生方、読んでみてください。
このままで良いと思いますか?
来年の日矯学会は、11/20-22日、長崎のフリックホールで開催されます。
頭蓋顎顔面手術の治療に関する学会、EACMFS(European Association for Cranio Maxillo Facial Surgery)の第24回学術大会が9月18日から21日、ドイツ ミュンヘンで開催されましたので、参加してきました。
この学会は、今回はミュンヘンで開催されましたが、International meetingで、参加する先生も世界中から、開催地も世界各地で開催されており、顎顔面手術に関する学会では、最も権威のある学会です。
参加目的は、
1,最新の口腔外科手術の実態を知るには、日本の口腔外科学会よりも世界中のスペシャリストが集まる学会に参加した方が良い
2,外科的矯正治療は日本だけでなく世界的に Surgery firstが一般的になりつつあるが、その現状とレベルについて知っておきたい
3,最近の digital化により、外科矯正も 3DCTと Intra Oral Scannerのdataを combineして Virtual Surgeryを行うのが当たり前になってきているので、機械大国ドイツでの実態と精度について知っておきたい
等です。
ひろ矯正歯科では、患者さんの治療を行うにあたり、まず、初診相談でお口の中を拝見させて頂き、おおよその治療方法、治療期間、必要な費用などを御説明させて頂きます。
カウンセリングのあと、詳しい検査を希望された患者さんに対してのみ、矯正歯科治療を行うために必要な検査を行い、分析した検査資料から矯正診断を行い、治療方針を患者さんに御説明し、患者さん御自身の同意が得られた場合にのみ矯正歯科治療を開始しています。
「歯並びを治すのに大人の歯を4本抜いた」という話を聞いたことがあると思います。
また、「すごい受け口を治すのに手術して下アゴを引っこめた」という話も聞いたことがあるかも知れません。
抜歯に関しては、患者さんからすれば、出来るだけ歯を抜かないで治療したいのは当然でしょうし、私達矯正歯科医としてもなるべく抜かないで治療したいのですが、分析の結果、抜いた方が良いと診断結果が出ているのに、無理に抜かないで治すと、歯の寿命を著しく縮めてしまったり、満足な治療結果が得られない等々、いろんな問題が出てきます。
白人は凸凹の度合いが軽度ですので、抜歯治療の割合が約30%ですが、日本人は叢生が著しいために、概ね70%は抜歯症例であると報告されています※。
つまり10人患者さんがいれば、7人は抜歯が必要であるということです。
ちなみに、ひろ矯正歯科では、抜歯の比率は概ね50%と、日矯学会誌のデータよりも少なくなっています。これは、成長期の患者さんは成長をコントロールすることで、非抜歯で治療することが出来、この比率が他の医院よりも多いためです。
(※戒田清和他:鶴見大学歯学部附属病院矯正科の過去25年間における抜歯部位および頻度についての検討、日矯歯誌 57,103-106,1998.)
手術に関しては、基本的に健康保険適用となり、手術を併用して矯正治療を行う場合は、矯正治療も健康保険適用となります。
ものすごい出っ歯や受け口で、著しい骨格的な異常を伴っており、矯正歯科のみで治療するよりも、外科手術を併用して治療した方が良い場合があります。いわゆる外科矯正で、症例が全体の患者さんに占める割合は医療施設によってかなり開きがあり、東京の某先生は、全体の 50%を超えると言っていましたが、日本の矯正歯科専門医における平均は、概ね13~17%であると言われています。
ちなみに、ひろ矯正歯科では、徹底的に外科手術を避けて治療しておりますので、外科矯正の割合は全体の患者さんの 0.2%に過ぎません。つまり、矯正歯科専門医では、100人中 13〜17人が外科矯正で治療しているのに対し、ひろ矯正歯科では 1000人中 2人程しか居ないということです。この 0.2%の人は、著しい顎変形を伴っており、手術しなければ患者さんが治療結果に満足出来ないと診断し、患者さん御自身も外科手術を希望された場合です。
Surgery firstに関しては、いろいろ言いたいことがあるのですが、個人的な事情により、今は書くことが出来ませんので、またの機会に書きたいと思います。
17日羽田発ミュンヘンまで直行のANAに乗り、ミュンヘンのホテルには、午後7時頃に到着。ヨーロッパに行ったときはいつも、最初の3日くらいは必ず夜中3時頃に目が開いて寝れなくなり、空腹との闘いになりますので、ホテルに到着後はハンバーガーと、ウエルカムドリンクのヴァイッェンビールをいただき、11時頃に寝ましたが、、、やはり夜中の 3時頃に目が開いてしまい、仕方なく起きて仕事をします。
とはいえ、今回の学会では講演はせず、聞くだけなので、時間に追われて Power Pointと格闘するというわけではないので、気が楽です。
海外の学会で発表しないで聞くだけというのは、記憶の限りでは今回が初めてかな、と思います。
発表しないとこんなにも気が楽なんだなあ、ということを初めて体験、これが普通なのでしょうが、なんだか罪悪感のような、申し訳ないような気がしました。
ハンバーガーとヴァイッェンビア、美味しかったです。
18日は朝から会場まで歩いて行き、事前登録のカウンターで参加証と抄録を、、ところが、抄録は無し、携帯にアプリをダウンロードして、携帯で見るようになっています。
抄録の印刷費が節約でき、かさばらなくてよいのでしょうが、アンダーラインを引いたり、付箋を付けたり、ペンで書き込んだりすることが出来ないので、非常に不便でした。
バッテリー切れに備えてモバイルバッテリーを持って行ったのは正解でした。
学会場の Gasteig。講演会場は、この Gasteig、向かいの Holiday Innです。物凄い大きな学会でした。
講演会場に入りきれずに通路まで人が溢れている講演もありました。
その夜はホテルの近くの Haxnbauerでシュバイハクセを食べました。普通、シュバイハクセは少し臭みがあるのですが、ハクセンバウアーのシュバイハクセは少しも臭みが無く、外はカリカリ、中はジューシーで凄く美味しかったです。
翌朝はホテルの近くの産直市場、Viktualienmarktを通って会場に向かいます。
モーニング珈琲でなくて、モーニングビア〜、、、さすがミュンヘン。
4日間を通しての感想は、「世界の一流の口腔外科の先生は、ここまで顔面再建するのか!」と感激しました。特に小児外傷の治療の手術に関しての Edward Ellis先生の講演、上顎癌や頭蓋骨再建についての Andre Eckardt先生の講演は本当に感銘を受けました。
たとえば、組織の損傷が著しい場合には、身体の他の部分から皮膚を切り取って移植するのですが(植皮、皮弁)、もっと損傷が著しい場合、筋被弁を行います。
つまり、皮膚だけを薄く剥がして患部に移植するのが植皮・皮弁ですが、筋組織に含まれる血管ごと切り取り、患部に移植するのが筋被弁です。
この後のリンク先に含まれる画像は、一般の方には少しショッキングだと思いますので、どうしても見たい方だけどうぞ。
上顎骨が半分無い患者さんの顔面も見事に再建してしまう技術には、本当に感激しました。
皮膚の再建に関しては、火傷で皮膚が著しい損傷を受けた場合に、ティラピア(魚)の皮を使って治療する事を考え出したBrazil、Ceará大学のOdorico de Morais教授は、考えついた事自体が偉大ですが、もっと凄いのは、火傷治療だけに終わらず、ティラピアでの治療は今はもっと進化を遂げ、ロキタンスキー症候群(子宮と膣の一部が先天的に欠如している先天性の疾患)の患者さんの膣再建までも成功しているということです。
今回、EACMFSに参加して、ひしと思ったことは、この先生達は一生懸命切磋琢磨して自分の技術を磨き、自分の行う治療に誇りを持っており、患者さんの治療を行うことに生きがいを感じている、ということです。
それに比べると、最近の矯正歯科はどこに向かっているのでしょうか。「インビ○ライン」などに代表されるいわゆる「マウスピース矯正」、情けない限りです。
永年、専門教育を受け、しっかりとした技術と能力を持っている筈の専門医までもが、こんなクソみたいな物に手を出し、高価な治療代を患者さんに請求し、「歯並べ」を行う。
そもそも矯正歯科というのは、きちんとした理論に裏付けられた診断と治療目標があり、ただ単に歯を並べて終わりでは無い筈です。
こんなものは矯正歯科ではないので、「マウスピース矯正」などと、「矯正」という言葉を使うのはやめて頂きたい。「マウスピース歯並べ」とか、「歯並べ倶楽部」と言って欲しいです。
実際にアメリカのアライナーの広告には、Orthodontics(矯正歯科)という言葉は使われていません。
やっている先生達は、「需要があるから仕方が無い」とか、「ワイヤーベンディングに朝から晩まで時間と体力を尽くす奴は馬鹿だ」と言いますが、真の矯正専門医はこんな物に手を出しません!
需要があれば良いのか、並べば良いのか、という低レベルな話になってくると閉口しますが、例えば、この先生達が銀座の寿司屋に寿司を食べに行って、大将がスーパーで買ってきた寿司を出して来たら、怒りますよね? 大将の言い分は「オレが握るより、西友の寿司の方が旨めえんだ、文句あっか?」と言ったら張り倒すでしょう。
どうしても「マウスピース歯並べ」をやりたい患者さんは、歯医者に大金を支払わないで、そのお金でアメリカに行き、Marcy’sでアライナーのキットを購入して送れば($79)、アライナーを作って返送してくれるので、そのほうが遥かにマシだと思います。もちろん、行かなくてもネット注文も可能です。
あまり書くと、アライナーをやっている先生から嫌がらせを受けますので、このへんでやめときます。
学会の翌日は、オクトーバーフェストが開催されていましたので、行ってきました。
ミュンヘンの駅は民族衣装をまとった人達でいっぱい、世界最大の祭典です。
駅を降りると会場まで歩道にオクトーバーフェストのロゴがペイントされていて、そのとおりに歩いて行けば会場に着きます。
初めてでしたが、いや、物凄いです。
大テントには約4000人が収容できるそうで、この大テントが醸造所ごとに別々にあり、合計で14もあります。
オクトーバーフェストでは、ウエイトレスがこんなにたくさんのジョッキーを運ぶのが有名です。
ジョッキ一杯 1リッター(Massと言います)ありますので、この女性の運んでいるビールは、11㎏にもなります!
自分も一杯飲みましたが、美味しいですね。ソーセージも美味しい!
観覧車から会場全体を見てみました。驚いたことに、これらの施設はテントも、ジェットコースターも、観覧車も、全て仮設で、オクトーバーフェストが終わると全て撤去して、更地にするそうです。
ミュンヘンではタクシーでは無く、公共交通機関を利用して移動しました。
ドイツでは地下鉄、トラム、バスなどは共通の切符で乗ることが出来ます。
1回券、1日券など、いろいろありますが、10枚綴りの回数券がお薦めです。
回数券は1年間有効、使い方は、乗る前に必ず打刻することです。
打刻しないで乗ると、キセル乗りで捕まり、罰金は60ユーロです。
切符は自販機で買います。切符に打刻する器械は、小さな駅ではホームに、大きな駅ではホームに降りるエスカレーターの周囲にあります。
切符を機械に入れると打刻されます。回数券は、右の写真のように折って機械に入れます。
この切符で S-bahn(都市近郊電車)、U-bahn(地下鉄)、Bus(市内バス)、Tram、Regionalzugの全てに乗ることが出来ます。
帰国してからもビールがやめられなくなりました。
今日も患者さんに喜んで頂けるよう、一生懸命治療します!
6月28日から7月1日まで Portugalの Cascaisにて 第13回ヨーロッパ舌側矯正歯科学会が開催され、講演と Titular memberの試験官を頼まれましたので、有り難く受けさせて頂き、行ってきました。
いつも診療に追われて講演の準備をする時間が無く、講演前日完成というパターンなので、今回はもっと早くに準備を終えて、機内ではワインでも飲みながら映画を楽しもう、と思っていたのですが、毎日朝から晩まで診療とペーパーワークに追われる状況は何も変わらないので、叶わぬ夢、出発当日になってもプレゼンの準備が終わっていません。
毎朝7時頃には出勤して仕事をしてたんですけど、、、。
東京に向かう特急あずさ の中でも、羽田空港でも、本当に数分をも惜しんでPCを開き、機内でも一睡もせずに必死で準備しますが、終わらないまま宿泊先である Hotel Vila Gale Estorilに夜11時頃到着。
プレゼン準備が終わっていないのが気がかりですが、翌朝は9:00から試験官をしなければならないので、朝方3:00頃には寝ることに。
ホテルは学会を通じてではなく、個人で取ったホテル、リゾート地でオーシャンビュー朝食付きとのことで、楽しみにしていましたが、、、確かに海は見えますが、目前が海というわけではなく、イメージと違うなあ、、、まあこんなもんかぁ、、、。
朝食を取り、8時半に試験会場に向かいます。
ESLOはヨーロッパの矯正専門医のための学会であり、ヨーロッパの先生しか役員や会長にはなれません。
ですから、今までは Examinerではなく、Supervisorという肩書きで症例審査をして来ましたが、今回は正式に Examinerということで参加しています。
今回配布された名簿を見て、Titular memberの第一号は、2008年、私ひとりだったんだということを初めて知りました。
しかも、ESLOでは、4人しかいない Honorary membersの中の1人として登録されています。
なんと有り難いことでしょうか。
WBLOの第一号を私が頂いたことや、こういったことが面白くない先生が、とうとう、、。
ちなみに、前回の Athensの ESLOで暴力事件をおこした先生は、ESLOから「除名」となりました。
この先生は日本舌側矯正歯科学会でも役員をしていますが、JLOAからは何もお咎め無し。
国際的な大きな問題に発展している以上、少なくとも理事会にかけて厳重処罰をしないことには、今後の JLOAの対外的な関係にも問題が出てくると思うのですが、、。
まあ、自分は JLOAのそういうところが嫌で退会したのだし、JLOAがどうなろうと自分には関係のないことですが、何も関係ない日本人が海外の学会で白い目で見られるような事は避けるべきだと思いますが、、。
話を試験に戻します。
今回は Active memberへの受験者が26名、Titularへの受験が11名、試験はいつもどおり匿名で行われていますので、自分に知らされているのは Candidate No.だけで、何処の国の誰なのかといったことは何もわかりません。
渡された Candidate No.のテーブルに行き、提出症例を審査します。
部屋はまさに「水を打ったような静けさ」です。
審査は基本的に EBOの採点基準に則っており、減点方式で規定どおり審査して行きます。
最初に審査をした Candidateの Case 1は、Openbite caseなのに、臼歯を遠心移動して治療しています。
Reportには、下顎の Forward rotationにより開咬が改善されたと書いてありますが、レントゲンの重ね合わせでは下顎の Forward rotationは見られません。
これは診断、治療方針からダメ、治療後の評価もダメ、今思えば、診断と治療方針の項目でバッサリ減点して落とすべきでしたが、悩んだ挙げ句、合格点を与えてしまいました。
さらに Case 3は、下顎の第一大臼歯に分岐部病変があるので(抜歯しなければならないような状況ではない)、第一大臼歯を抜歯、第二大臼歯を近心移動した、とのことですが、水平埋伏していた智歯を牽引誘導して仕上げるべきなのに、智歯も抜歯されていて、下顎には右も左も大臼歯が1本しかありません。
埋伏智歯を牽引しないで抜歯した理由は、「一般歯科医が抜いてしまった」と記してありますが、これはあかんやろ、と思いましたが、これも不覚にも合格点を与えてしまいました。
術前(上)と術後(下)のパノラマX線写真。
左下の第一大臼歯が抜歯されただけでなく、左下の智歯まで抜かれ、しかも治療後の左下の第二大臼歯には大きな根尖病巣が、、、今見ても、これは無いな〜って思います。
なぜこんなひどい治療にOKを出してしまったのか、、、不合格にすべきでした。
Case 4はパノラマX線写真が治療前のものしか提出されていないので、術後の Root parallelingなどの評価が出来ません!
5症例全て治療後のレントゲンが添付されていないことから、英国の先生だろうと思って(英国では治療後のレントゲンを撮ることが出来ないので)、Presidentの Germainに相談、治療後のレントゲンは無くてもOKということでしたので合格にしたのですが、後の面談の時に会ってみると、実はオーストラリアの先生でしたので、英国じゃ無いと知っていたら不合格は間違いなかったのですが、、。
その時に、「Case 3は何故埋伏智歯を牽引誘導して使わなかったのか。抜歯されたのは一般歯科医のせいにしているけど、私達矯正専門医は患者の歯を守るために矯正治療をしているわけだから、抜歯に関しても責任があるのじゃないかい?」とコメントをしましたが、不機嫌そうな顔。
話しをしていて、とても不愉快になりましたので、そこで話は打ち切り。
もう一人審査をした Candidateは、5症例とも大変難しい症例を出してきていました。
個人的にはOKだったのですが、模型や写真などが規定のレベルに達しておらず、減点要素も多かったために、この先生は落ちてしまいました。
試験後、その先生と話をすると、誠実な先生で、とても気の毒な気がしました。
その後の Examiner’s luncheon meetingでその事を話すと、それは仕方が無い、Toshiが悪いんじゃ無いから気にするな、と、みんなから言われましたが、なんだか複雑な気分でした。
これは個人的意見ですが、例えば終了時のレントゲンがない、ということは、どのようなお国事情であれ、それは「試験の公平さ」を欠いているわけで、資料が揃っていない先生は受験資格が無い、そしてそのようなファイルを出して来た時点で審査中止とすべきであると思います。
例えば、ABOや JOBの試験に終了時のレントゲン無しで通るか、といえば、100%絶対に通らないです。
以前、New Yorkで WBLOの審査をした際には、平行模型が提出されておらず、全て咬合器に装着して出されていた Candidateをバッサリ切って落として、それが会長の友達だったために、会長からたいへん非難されましたが、友達だから通せというなら、そんな試験は無い方がマシ、診査する前に合格不合格を決めれば良いじゃないか、と、突っぱねました。
今回の最初の Candidateも、迷わず落とすべきだったと後悔しています。
今回の件を踏まえて、今後の試験は、口頭試問をしたあとに最終評価を出すとか、1人の Candidateを複数の Examinerで評価する、等々の提案をしたいと思います。
Examiner’s luncheon meetingにて
その夜は Welcome cocktail partyが海辺のテラスで開かれ、久しぶりに再会したいろんな国の先生達と話しが弾みます。
Party終了後、一緒に食事に行こうと誘われましたが、明日のプレゼン準備が終わっていないので、さすがに無理、ホテルに帰って準備します。
翌朝は朝食前に少し散歩をしてみました。
仕事じゃなければ、こんな素敵なビーチでビールでも飲んで、のんびりしたいところです。
朝食を食べてから会場に向かい、Opening ceremonyから出席します。
自分の講演は午後イチ、昼食の後なので、多分会場はガラガラだろうなと思っていたのですが、みんな戻って来てくれて、会場は満員に近い状態でした。
満席になると、こんな状態です。
今回の ESLOのテーマは、 “Simplicity and efficiency -solution for daily practice-” でしたので、私の講演は、“Are you simplifying or complicating your practice?”という演題で、リンガルの治療を難しくしている要因についてお話しました。
もともとリンガルの治療は、通常の外側からの矯正(以下、ラビアルと記します)に比べて高度な技術と舌側矯正特有の知識を必要とし、診断もラビアルとは異なるのですが、その難しいリンガルの治療を一層難しくしている原因は、じつは商品を売るために流布されている間違った情報などに惑わされていませんか、ということで、例えば、精度のないボンディングシステムを薦めたり、自分の開発したブラケットを売るための誇大な宣伝を行っている先生が野放しになっているからです。
そもそも学会発表というものは、商品の宣伝の場ではありませんから、利益相反のある発表は禁止されている筈で、ブラケットが売れれば自分の懐にお金が入ってくるという御当人が、学会発表を宣伝の場として使用し、販促活動を行うというのは如何なものでしょうか。
販促活動をしたければ、業者展示のブースでプレゼンをするべきで、これなら誰も文句言いません。
この点については、ESLOの役員の先生達も同様に言っていますので、近い将来、宣伝目的であると考えられる講演は禁止になるかも知れません。
これが一例です。
この上の写真は2008年に私がスペインの矯正歯科学会誌に投稿したもので、下の写真は、某先生が2012年に自分の出版した本に掲載した写真。
違うところはダウエルピンが穴の開いたプレートになっているくらいで、写真のカットまで同じように撮られています。
彼らの言う Kommon baseは、最初は舌面のみを被覆する形態でしたが、それでは精度が出ないために、彼らが切縁までレジンパッドを延長するようにモディファイしました。
それは、私が1998年に日矯学会誌に投稿し掲載されたオリジナルのヒロシステムそのもの、違いは全く無いどころか、オリジナルのコモンベースの利点を全てスポイルしています。
現在の Hiro systemはボンディング後にコアの除去が容易に出来ますが、彼らがモディファイしたコモンベースはコアの除去が出来ないため、何一つメリットはありません。
こうゆうボンディングシステムを あたかも素晴らしい、最新のテクニックのようにプレゼンし、いちいち ”Now, we are not using Hiro system but Kommon base, ah?” くどくどと言う理由は 皆さんおわかりですね。
ちなみに、Kommon baseの開発者の小森先生御自身は、いつもプレゼンの時に私の紹介をしてくださり、私の事を悪く言うことは絶対にありません。
さらに、今回の私のプレゼンでは、リンガルの治療に於いて、Arch wire coordinationが如何に無意味なものかも説明しました。
なぜなら、その人達がいつも Arch wire coordinationを出してくるからで、リンガルのことを本当に理解していれば、そんな無意味なものを出してくるわけがないからです。
その日のお昼には、パリ大学のDUOLEに呼ばれ、皆さんと一緒にお昼を食べました。
いつも呼んで頂けるのは本当に有り難いことです。
フランス語を勉強しなければ、、、。
夜は President dinnerが会場で開催され、お役目を無事終えましたので、お酒もしっかりと頂き、ディナーを楽しませて頂きました。
もともとは お庭で開かれる予定でしたが、珍しく降り始めた雨のために室内で開かれました。
翌日も朝から晩まで、会場から一歩も出ずに全ての講演を聞きますが、どちらかといえば Deviceの紹介、誰でもやっていることは同じで、特に目新しい話はありませんでした。
その夜は Gala dinnerが Casino Estorilで開かれました。
Presidentの Guillaumeがいつの間にかステージでベースを弾いていました。
あまりにも上手く、違和感がなかったので、気付かない先生も多かったようです。
翌日は学会最終日、お昼で学会は終わりです。
朝 8:30から General assembly、9:00から学術講演が始まる予定でしたが、またもいつもと同じく、1人のイタリア人が次期会長や開催場所にクレームを付けはじめ、終了予定時間を30分も過ぎているのに終わる気配は一向になし。
このクダラナイ問答のために、学会スケジュールが30分も遅れてしまいました。
まったくいい加減にして欲しいです。
その後の講演では、2人の日本人の先生が1つの演題として治療報告を行いましたが、1人目の先生は構音障害が著しく、明らかに発音が異常なので、講演後に挙手質問、 「先生は、今、矯正治療中ですか?」と聞きますが(英語で)、英語が全く理解出来ないようで、もっとわかりやすい、単純な英語で聞きますが、通じない。
とうとう会場から 「日本語で聞け!」との声があがりましたので、日本語で聞いてみると、 彼からは “Yes”という答が帰って来ましたが、もう一人の女性の演者が慌てて “No”と遮ったのは一体何だったんでしょうか、、、。
そして、そのもう一人の女性の先生は、開咬症例で抜歯をせずに臼歯の遠心移動を行って治療した症例を出して来たので、質疑応答で「矯正歯科というのは学問であり、治療にも原則がある筈です。開咬症例で臼歯の遠心移動を行えば下顎の clockwise rotationを起こして、開咬は一層悪くなるはずです。この症例では何故小臼歯を抜歯しないで臼歯の遠心移動を行ったのでしょうか、その理由を教えて下さい。」と聞きますが(学会なので当然英語です)、返答が帰って来ない。
何故答えないのか、、、おそらく、自分が治療していないので、診断の根拠がわからないのでしょう、とうとう質疑応答の「応答」がないまま終了、、、これは一体どうゆう事でしょうか。
後日、私が質問した事に対して一部の先生が誹謗していると聞きましたが(日本の先生のみ)、そうゆう事を言うこと自体おかしな話で、私は別に虐めるつもりで質問したのではありません。
患者さんの治療を行う立場の矯正歯科医が、聞き苦しいほどの Tongue thrustをしていれば、それは矯正専門医としては不適格ですし、もし舌側矯正のブラケットが入っていて、それが発音障害の原因であれば、それを隠し、偽った事は問題です。
矯正歯科の原則を無視した治療が行われ、それを自慢げに講演されれば、聞いている人達からは「日本人は矯正学の基本が全くわかっていない」という評価を受けますから、意義を申し立てるのは専門医として当たり前の事です。
これは国際学会なのです。
矯正歯科は 200年以上の歴史を有する学問です。
今まで世界中の臨床家や研究者が行ってきた膨大な報告や研究やデーターを無視して、
「矯正歯科=歯を並べれば良い」
「見た目を良くするのが矯正治療」
という考えが まかり通るならば、歯科矯正学の学問自体が崩壊するのが目に見えているからです。
最近、日本の矯正歯科学会でも問題になっているように、マウスピース矯正(イン●●ラインに代表されるアライナー矯正)をやる歯科医が増えてきています。
矯正学の事が何もわからない一般歯科医だけでなく、矯正専門医として尊敬出来ると思っていた先生までもが最近イン●●ラインに衣替えし、ユーザーミーティングでプラチナドクターとして講演することを誇りに思っている。
勘違いというか、可哀想というか、、、。
そもそも、プラチナドクターは、どれだけイン●●ラインにお金をつぎ込んだかで決まるもので、その先生の矯正歯科医としてのレベルがプラチナというのではありません。
その先生達は、「需要がある」、「楽な上に、今までとは比べものにならない大金が入ってくる」などと言いますが、目を覚ませ!
業者のインスツルメントにさせられて嬉しいのか!
一体この人達は、6年間、歯科大学で何を学び、卒後何年間 矯正専門のトレーニングを受けてきたのでしょうか?
アメリカでは Smile care clubとか Smile direct clubなどに代表されるように、 一般の人がインターネットで注文すれば、歯型を採る材料が送られてきて、説明書に書いてあるとおりに自分で自分の歯型を採り、返送すれば、数日後に何枚ものアライナーが送られて来て、それを指示どおりに自分で装着する、というのが拡大しつつあります。
すなわち、歯科医師は不要なわけです。
私は別に「嫉妬」しているわけでもないし、自分に「出来ない」から言っているのではありません。(出来ないのではなく、こんなクソみたいな物はやらないのです。)
医科も歯科も、全ての医療行為は「正しい診断」があって初めて「治療」が出来るわけで、そのために「検査」が必要であり、「知識と経験」が必要になるわけです。
歯科の中でも矯正歯科は特殊な分野であり、少しかじっただけではまともな治療は出来ません。
10年以上にわたる高度な専門教育、優れた診断能力のもと、最新の技術を駆使する努力が必要です。
一般の人が自分で歯型を採って、返送して出来上がってきたアライナーと、矯正専門医が自院にやって来た患者さんにアライナーを入れる、何処が違うでしょうか?
モノは同じ、違いは、患者さんが歯科医師に高い仲介料を支払うか、それとも歯科医師をスルーして直接メールオーダーして無駄な出費を抑えるか、それだけです。
こんなものが歯科医師の行う医療と言えるか、こんなものが矯正歯科治療と言えるか?
絶対に Noです。
一般の人はそのへんの事がわからないので仕方が無いですが、専門教育を受けた歯科医師が、その程度の判断が出来ないわけがないです。
しかもやっている歯科医には、通常のマルチブラケットの矯正と遜色ない治療結果を得られるとホームページに記している者もいます。
しかも、アライナーだけでは動かせないとなると、歯の外側にノッチを接着したり、ボタンを付けて顎間ゴムをかけます。
Horses & Deers、悪あがきもいい加減にしたらどうかな、と思います。
これがマウスピース矯正(写真はインターネットで検索して引用)。
自分の歯には何も付かないのでは無く、■や●のレジンの固まりが接着され、マウスピースにはボタンが付けられ、輪ゴムがかけられています。
これでも、こんなモノ、やりたいですか?
もう1つ書いておかないといけない事があります。
日本には、日本矯正歯科学会をはじめ、その関連地方学会や、日本臨床矯正歯科医会、日本顎関節学会や日本口蓋裂学会、日本成人矯正歯科学会や日本舌側矯正歯科学会などなど、海外では、AAO、WFO、EOS、ESLO、WSLO、だけでなく、それぞれの国にいろんな専門的な学会が存在します。
学会と言えば聞こえは良いですが、中には、執行部が好き勝手やり放題の会、退会者が後を絶たない会もあり、その存在意義・設立目的自体が異常である会もあります。
学会の理事役員は、会の正常な運営を行うために選ばれているのに、理事になった途端に自分は会員よりも「身分」が高いと勘違いして横柄に振る舞ったり、自分の保全だけを考えてダメなものをダメと言わなかったり、仲の良い先生が持ち回りで会長になったり、、、そんな会は存在する価値自体がありません。
基本的にどの会に入会するか、どの会を辞めるかは自由ですので、今後は自分にとって本当に必要なものに絞り込み、不要なものは暫時退会します。
日本舌側矯正歯科学会はすでに退会しました。
WSLOと日本臨床矯正歯科医会は、近日中に退会する方向で考えています。
理由は別の機会に詳細に記します。
Presidentの Guillaumeです。Good job!
次回のESLOは 2010年、イタリアのソレントで開催されます。